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平成23年を振り返って~絆について~

医師 平野 吉彦

平成23年はみなさまにとってどのような年だったでしょうか。私個人的には例年通りかわりなく日々の仕事にいそしむ1年ではありましたが、日本にとって大きな出来事としましては、やはり東日本大震災があげられます。当日にニュースで惨状をまのあたりにし、 不謹慎ですがまるで映画を見ているような錯覚におちいるほど非現実的であり、しかしなんとも言えない不安をおぼえたのを思い出します。通院患者様のなかにも、TVで被災地の 様子を見て調子をくずされた方もいくらかいらっしゃいました。

さて、その後の復興に際し、“絆”という言葉が盛んに聞かれるようになりました。年末の流行語大賞へのノミネートや、「今年の漢字」にも選ばれた通り、これほど“絆”が注目されたことは過去になかったでしょう。辞書で調べますと、「断つことのできない人と人との結びつき」と書いてあります。語源は平安時代からあった犬や馬などの動物をつなぎ止めておく綱のことであり、転じて家族や友人など人と人を離れがたくしている結びつきを言うようになったとのことです。語源や、もともとの意味は、やや“無理につなげられている”といったニュアンスも入っているように思いますが、それほど強く、人と人は結びついているんだということなのでしょう。有名な”甘え“という言葉同様に、英語では“絆”にきれいにあてはまる言葉が無いようです。他にも“運命の赤い糸”などという言葉もあるように、日本人は昔から、目に見えない人と人とのつながりを大切にしてきたことが分かります。阪神大震災以降に、ようやく国内でも注目され体系化された心のトラウマの治療でも、まずPTSDにならないようにする一番大切なことは、孤独になる状況をできるだけ避けること、つまり“一人ではない”ということを感じられるかどうかということです。これこそまさに、“絆”ではないでしょうか。以前からあった“絆”という言葉が、個人的には少しやすっぽくとらえていた節もあったのですが、生き生きと響いてくるようになりました。

話はかわりますが、フェイスブックというものをご存知でしょうか。日本でもいまや1000万人が参加しています。ソーシャルネットワーキングサービスの一つで社会的ネットワークをインターネット上で構築するものです。友達を登録し、それぞれが自由に日々のできごとや意見や情報を書いたり写真をのせたりして、それに対してまた、自由にコメントしたりするものです。そこで、かいまみていて興味深いのが、書かれていることの多くが、他愛も無いといったら失礼ですが、現実の日常の会話に近いもしくはそれ以上に何気ないことだということです。例えば「今日は○○を食べた。すごくおいしかった。」→「いいね。私も食べたい。」などです。このような会話が頻繁にインターネット上で行われています。人と人との距離が近くで支え合っていた、ご近所づきあいが密であった“古き良き村”のかたちを少し思い起こさせないでしょうか。この人と人とがつながる道具が、個人主義の国、アメリカで生まれて世界に広がったということもおもしろいですし、グローバル化して地域のコミュニティが壊れたというものの、形をかえて新たにコミュニティが作られていっていることも、世界情勢的に不安定な時代に合っているように思います。これもやはり“絆”を求める姿に見えます。(余談ですが“甘え”という言葉が海外で“AMAE”として広まったように、フェイスブックという名前も“KIZUNA”にかえてはどうでしょうか笑。)

以上、“絆”について少し考えてみました。私も精神科医療をになう者の一人として、日本がこれまでも大切にしてきた”絆“を患者様と一緒に確認したり、また新たに結べる場を少しでも提供できればと考えている今日このごろです。

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