医療法人社団 正仁会
トップページへ 季刊誌みどり 心の資料室・患者様に役立つ情報をお届け ご連絡
INDEX » 季刊誌みどり » 感染症雑感 (2)

感染症雑感 (2)

医師 藤田 学


肺結核

 かつて不治の病であった結核は抗結核薬の登場により治療が可能となった。しかしながら、結核対策の遅れもあって我が国は先進国の中にあって今だに結核中蔓延国である。特に大阪府や兵庫県は結核罹患率が高い。「結核は過去の病気ではない」とのスローガンのもと対策が講じられてはいるが、結核病棟の縮小、専門医が少ないなどきびしい状況である。近年は多剤耐性結核も出現し治療が困難なケースもある。新しい結核の検査法としてIGRA(QFT、T-スポット)が使用されるようになってきた。結核菌特異抗原によりリンパ球を刺激後産生されるインターフェロンγを測定し結核感染を診断するものである。ツベルクリン反応より特異度は高く診断制度は上がっている。しかしながら活動性結核と潜在性結核の区別ができない、判定保留となることがあるなど問題点も多い。院内感染対策として職員健診、接触者健診への導入がすすめられているが、既感染率の高い高齢者では施行すべきかどうか、判定保留となった場合の対応など課題も多い。喀痰等の症状がなく、胸部レントゲンも異常がなく、IGRAが陽性の場合どうするのか。すべて潜在性結核と考えて予防投与を行うのか。専門医の間でも意見が分かれるところである。

鳥インフルエンザ

 韓国の農場で流行していた鳥インフルエンザ(H5N8)が11月に入って、日本各地で渡り鳥のフンから検出されている。H5N8は東南アジアで流行しているH5N1と同じく高病原性鳥インフルエンザである。H5N8はヒトへの感染はおこりにくいとされる。しかしながら鳥を扱う市場、養鶏場などで鳥と濃厚接触をおこしたときに、排泄物や体液を介して感染する危険はある。今後ウイルスの変異により容易にヒトへ感染するようになったり、さらにはヒトからヒトへ感染をおこすようになる可能性がある。H5N1、H5N8ともに高病原性鳥インフルエンザは抗インフルエンザ薬が有効と考えられるがH5N1では致死率も高くパンデミックに備える対策が必要である。我が国では、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)に対するプレパンデミックワクチンが備蓄されてはいるが、その有効性や備蓄数には問題が残る。

精神科病院での感染対策

 我が国を取りまく感染症の状況において精神科病院(精神科病棟)の感染対策はいかにあるべきだろうか。当然、精神科病院がエボラ出血熱のような病原性の高い感染症に対応できるはずはないし、そのような患者を受け入れ治療することは不可能である。しかしそのような感染症の院内への侵入を防ぐ予防的な立場からは、十分に情報、知識を得ておくことが重要である。また再興感染症である結核、季節性に流行するインフルエンザやノロウイルス、MRSAなどの耐性菌についてはこれまで以上に対策を講じることが必要となる。精神科病棟で感染対策をおこなっていくうえで、さまざまな問題点がある。当然のことながら精神疾患の治療が優先されるし一般病院での対策とは異なる面もある。精神状態によっては患者が感染予防対策(手洗い、マスク、外出制限など)に協力的でないこともあるし、安静を保てず動きまわり病棟内に感染拡大を引き起こす危険もある。患者の高齢化や身体合併症により感染リスクは高くなっている。一般病院から転院してきた患者の耐性菌の持ち込みも問題となる。感染症専門のスタッフが少ないのも感染対策を困難にしている。院内感染対策としてインフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種は重要であり、当院でも積極的に接種をすすめている。近年、麻疹、ムンプス、風疹が学校や職場で流行することが増加しており、当院でも入職時に抗体価をチェックしワクチン接種を行っている。そして何より重要なのが、手洗い(手指消毒)、うがい、マスクなどの標準予防策である。その徹底のために感染対策の教育は極めて重要である。職員教育は精神科病院においても頭の痛い問題である。ICN(感染管理看護師)の認定制度もあるが、そもそも身体科一般病院の看護師を対象とした制度であり、精神科病院に勤務する看護師が資格を取得するのは困難な状況にある。精神科病院においては看護師長や教育担当看護師が必ずしも感染症に十分な知識を持っているとは限らない。素人が素人を指導するということもおこりうるのである。そのため、院内感染対策を踏まえた職員配置ができない。感染症患者の病室を不用意に移動させたり転棟させたりして、病状悪化や感染拡大をおこしてしまう。初動の遅れでインフルエンザやノロウイルスの感染拡大をおこしてしまう危険がある。当院ではICD(感染管理医師)、内科、呼吸器、消化器の専門医の資格を有する医師(非常勤を含めて内科医3名)が診療をおこなっている。また、院内感染対策講習会や感染対策病棟ラウンド等を実施している。単にノルマとして参加するということでなく職員各人が主体的に行動してくれることを願っている。

 一部私見を混じえて最近の感染症のトピックス、精神科における感染対策について述べた。医師向け、看護師向け、一般向け、それぞれに感染症に関する成書が多数出版されている。興味のある方、この雑文に疑問を感じる方は成書を一読されることをおすすめする。

ページへ上部へ トップページへ
医療法人社団 正仁会 http://www.athp.jp
〒674-0074 兵庫県明石市魚住町清水2744-30