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感染症雑感 (1)

医師 藤田 学


感染症の逆襲

 今年はデング熱、エボラ出血熱など感染症に関する報道が目立った1年であった。移植医療、再生医療と先端医療が注目されるなか感染症は過去のものとみなされつつあった。ところが近年日本ではほとんど見られなくなっていた感染症が再び増加している。抗菌薬の開発や公衆衛生の向上により発生数が減少していたが、再び増加傾向にある感染症を再興感染症といい、結核、デング熱、マラリア、黄色ブドウ球菌感染症などがあげられる。一方、海外に目を向けると最近30−40年間に新たに発見された感染症が猛威を振るっている。これらを新興感染症といい、AIDS(HIV感染症)、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、エボラ出血熱などが代表例である。新興感染症、再興感染症の増加の原因としては、病原微生物自体の変化、環境生態系の変化、国際的な人的交流の増加(グローバル化)、抗菌薬に対する耐性化などがあげられる。

エボラ出血熱

 西アフリカでパンデミックをおこしているエボラ出血熱は、空気感染はせず主に接触感染とされている。しかしながら、感染予防対策を講じて治療に従事した医師、看護師が感染していることや、WHOが西アフリカでの死亡率を約70%と報告していることを考えると、その感染性病原性は高いと思われる。アメリカの現政権は米軍の派遣等により積極的に介入してエボラ出血熱を封じ込めようとしている。我が国においても自衛隊の派遣が検討されている。エボラウイルスは元来、終宿主はヒトではなくコウモリだと考えられている。原住民が偶然コウモリと接触して感染をおこす人獣感染症であったが、食料、資源確保のために森林が乱開発されることにより、ヒトからヒトへの感染拡大をもたらすようになった。ワクチンや抗ウイルス薬が開発中であり、抗インフルエンザ薬として開発されたアビガン(ファビピラビル)が有効であるとの報告があるものの有効な治療法はない。アビガンは富山化学が開発したRNAポリメラーゼ阻害薬である。エボラ出血熱に対して未承認であるが、フランス、スペイン、ドイツ、ノルウェーの患者に投与され有効であったとされる。本年11月中頃からギニアの患者60人に対して治験がおこなわれ年内にも結果が出てその後承認を受ける見通しである。現在アビガン錠は2万人分の備蓄があり、30万人分の原料が確保されている。もし我が国でエボラ出血熱患者が発生した場合、患者にアビガン錠を投与し、治療にあたる医師、看護師に対して予防投与がおこなわれることになっている。西アフリカで医療活動に従事した者、ボランティア、報道関係者等が帰国して感染を拡大させることも十分に考えられる。また、資源確保のためにアフリカで活動している外国人(主に中国人)からの感染拡大も危惧される。このような現実を踏まえるとアメリカのように西アフリカに積極的に介入することのリスクも十分に考えねばならない。西アフリカに自衛隊や医療関係者を派遣することによって国内への感染拡大をおこしてはならない。また西アフリカなどのエボラ出血熱の汚染地域への渡航はさけるべきである。たとえボランティアであってもどうしても行くというのであれば、感染した疑いがあれば帰国しない、帰国後は潜伏期(21日)が過ぎるまで症状がなくとも自宅で待機する等モラルある行動を取ってもらいたいものである。一部専門家からは接触予防等を講じていれば感染拡大はないとか、封じ込めは可能だとか楽観的な意見も 聞かれるが決して油断してはならない。国内で感染拡大してからでは遅いのである。

デング熱

 この夏、東京代々木公園でデング熱が発生し、その後国内各地で感染が報告された。デング熱は蚊によって媒介される。我が国におけるデング熱の媒介蚊はヒトスジシマカであるが、国内で越冬することはないとされ、デング熱が常在することはないと考えられる。デング熱ウイルスは熱帯、亜熱帯のほとんどの国に存在する。特に東南アジア、南アジア、中南米で流行を繰り返している。日本人海外渡航者が熱帯、亜熱帯地域で感染する機会が多く輸入感染症例は増加傾向にあった。これまでの我が国での報告例はすべて海外で感染し国内で発症する輸入感染症例であった。今回は輸入感染症例から全国各地へ2次感染が拡大したと考えられる。温暖化により蚊の生息地域が北上しており生息時期も長くなっていることから、来年以降も国内でのデング熱発症はおこると思われる。症状は発熱、発疹、疼痛(頭痛、眼痛、筋肉痛、関節痛)が主であり多くは自然に軽快する。今だにワクチンはなく有効な治療法もない。一部が重症化しデング出血熱となるので注意が必要である。感染蚊が確認された場所では殺虫剤の散布がなされるが蚊は50~100メートルは飛行すると言われており根本的な対策とは言いがたい。デング熱と流行地域が重なるのがマラリアである。三日熱マラリアを媒介するシナハマダラカは日本全土に広く分布している。今後はデング熱感染症例の増加とともにマラリアにも注意が必要になると思われる。国内でのデング熱の発生はマラリア等熱帯、亜熱帯の感染症の日本への侵入の危険性を示していると言えよう。

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